目次
ビジョナリーHDの第2四半期決算の概要
売上高の推移
ビジョナリーHDの売上高の推移です。20年度2Q時点の累計値は143億3,500万(百万以下切り捨て)で、前年比9.3%の増です。上昇ペースは鈍化していますが、カンブリア宮殿で人気に火がついた昨年度より増えているのは、悪くないですね。
営業利益の推移
一方で営業利益は不安定です。20年度第1四半期には赤字に転落しています。第2四半期も黒字ではあるが、低調です。これは次の理由によります。
- 株式会社VISIONIZE社の株式取得対価を前倒しして認識(アーンアウト方式により取得したもの)
- 同様に追加的に認識したのれんの一括償却
のれん償却等の費用は本来、第3四半期に計上する予定でした。前倒しして第1・第2四半期に計上したのは、想定より早く目標達成したため。通期で考えれば同じ結果になるので、これも悪い話ではないですね。
大規模な増資の発表
概要
第三者割当増資の株式数は以下のとおり、異常な規模となります。調達する資金は4,243,608,600円(約42億円)です。
株式数 | 希薄化割合 | 発行価格 | |
現在 | 24,638,115 | – | – |
第三者割当増資 | 12,444,600 | 50.51% | 341円 |
譲渡制限付株式(RS) | 2,555,800 | 11.30% | 337円 |
増資資金の使途
- 新規出店:4年で17億を予定
- 次世代店舗への移行:4年で19億を予定
- 検査機器等及び人材・システム投資:4年で24億を予定
- エムスリー社との合弁会社設立費用及び運転資金:4億7,800万を充当予定
定款変更は更なる増資の予兆か
同時に以下の内容の、定款変更が発表されています。理由には、「第三者割当増資による事業拡大および将来の機動的な資本政策の遂行を可能とするため、発行可能株式総数を増加させる」とあり、将来的な増資が視野に入れられています。
現在の発行済株式数は24,638,115株ですから、9,800万株まで増資された場合には、希薄化率は297.76%になります。
現在の発行可能な普通株式数 | 定款変更後の発行可能な普通株式数 |
3,500万株 | 9,800万株 |
ビジョナリーHD・エムスリー株式会社の資本業務提携
エムスリー社が筆頭株主に
ビジョナリーHDとエムスリー社の資本業務提携が、同時に発表されています。第三者割当増資後には、エムスリー社がビジョナリーHDの33.09%の株式を保有する筆頭株主となります。エムスリー社はビジョナリーHDの株式を長期保有する前提です。
資本業務提携による効果
ビジョナリーHD代表取締役の星﨑尚彦氏と、エムスリー社の代表取締役である谷村格氏は、知人を通じて数年前から知り合い、事業戦略について数年間議論してきたそうです。練りに練られた上での、資本業務提携発表なのでしょう。
シナジー効果については、エムスリー社IRが次のように説明しています。
日本の医師の 9 割にあたる 28 万人以上が登録する医療従事者専 門サイト「m3.com」の医療従事者会員との連携により、店舗周辺に存在する視聴覚に疾病・ リスクを抱える消費者が早期に適切な医療が利用できるような環境を構築できるようにな ります。
(ビジョナリーHDと設立する、ジョイント・ベンチャーの事業は)全国に 400 近くあるビジョナリーホールディングスの店舗と 900 万人以上に上る CRM データ、そして弊社の情報基盤との連携により、全国規模で展開されます。このことにより、「視聴覚」に何らかの疾患や問題を抱えた方々 の健康と QOL の向上に貢献することができます。
エムスリー社とは
成長性の高い新興企業
日ごろ色々教えてくださるneyさんによると、同社は「新興企業のスター」のような存在。「M3.COM」という医療従事者向けサイトを運営し、高いシェアを持っています。ソニーが同社の株式の34.0%を保有しており、エムスリー社の時価総額は現時点で2兆を超えています。
同社の説明資料を読むと複数のセグメントが好調。特にMR君という医療従事者向け支援ツールは、成長のエンジンとなっているようです。同社は、以下のとおり、驚くほど右肩上がりな企業です。
エムスリー社の売上高の推移
エムスリー社の営業利益の推移
一連のIRに対する評価は?
更なる増資懸念
発行可能株式総数に係る定款変更があったことから、今後更なる第三者割当増資が決議される可能性は高いでしょう。しかも規模が非常に大きい。普通に考えたら非常にネガティブな内容です。
財務の安定と成長性への期待値
医療従事者支援サービスを中心に成長してきた、エムスリー社との資本業務提携によって、ビジョナリーHDのアイケアサービスが医療とシナジーを生む可能性があります。鈍化傾向が見られた成長性が、再度向上するかもしれません。
更に大きいのは、アドバンテッジ・パートナーズのエグジット以来不在だった、安定大株主の出現でしょう。事業面でのシナジーも期待できるエムスリー社は、既存のビジョナリー株主に好感を持って迎えられているようです。
インサイダーの株式保有
一連のIRの中で、従業員持株会支援信託ESOPの導入も発表されています。2019年12月25日から2020年2月28日までの期間、持株会が信託機関(りそな銀行)を通じて、市場から2億円の株式を取得するという内容。
また、取締役2名が337円で、522,000株の譲渡制限付株式報酬を取得します。こちらは新株発行によるので希薄化要因です。譲渡制限は2019 年 12 月 30 日(払込日)から 2022 年 12 月 30 日までの間。私はストック・オプションについて、株主価値経営の観点から好みませんが、インサイダーが株式を持つこと自体は悪くない話です。
増資を重く見るか、財務の安定と成長性を重く見るか
エムスリー社はビジョナリーHDにとって、願ってもない資本業務提携先と言えそうですが、増資の規模や今後の増資懸念が重いのは事実。どちらを重く見るかで、ビジョナリーHDの評価は分かれそうですね。