三菱商事とは
日本最大の総合商社です。三菱財閥グループの御三家の一角としても、広く知られています。1918年に創業。創業から100年以上が経過しています。
事業内容
総合商社なだけに、事業ポートフォリオは非常に広いです。
生活 | インフラ | 資源・エネルギー | IT・物流・金融 | |
川上 | 食品原料 | 金属資源 | 天然ガス | 通信・データ資源 |
川中 | 加工・製造 | 自動車・機械 | LNG・電力 | 物流・リース |
川下 | 小売 | モビリティサービス・複合都市開発 | 分散電源 | Eコマース |
生活に密着した食品等の生活必需品から、IT分野まで投資対象は広く、それぞれ川上から川下までカバーしています。今後重点的に投資するのは、緑色の箇所。IT・物流・金融の全般と、他分野の川下です。将来性があるIT事業等と、消費者に近い川下の事業を重視していく方針です。
これらの事業について、北米、南米、欧州、アジア、オセアニア、アフリカで展開しています。事業内容が多岐に渡り、コングロマリット ・ディスカウントが起きるため、総合商社は割安な株価に据え置かれやすいです。
事業内容が分散されるとコングロマリット・ディスカウントが働く理由は以下のとおり。
- 事業が幅広く分析が困難
- 多角化による経営資源の分散が、非効率化に繋がると懸念される
一方で、投資対象が分散されることで、リスクも低減します。一般にはデメリットの方が意識されるため、株価は割安になります。
総合商社の変遷
誕生の経緯
総合商社は日本独自の形態です。総合商社が日本で生まれた理由は、後進国日本が欧米に追いつくために、広範な事業を同時に発展させる必要があったためです。
総合商社は人材をフルに活用し、原材料の輸入・資源開発といった川上から、中間財の製造(川中)、商品の販売(川下)までを担ったのです。
トレーディング事業
昭和の総合商社は、トレーディング事業の印象が強かったです。トレーディングとは、ある製品を販売したい会社と、その製品を買いたい企業の中間にたち、売買を成立させることです。商社は中間マージンや仲介手数料を得ます。
投資会社へ
総合商社は「商社冬の時代」とされた90年代頃から徐々に投資会社の性格を強め、トレーディング事業は縮小していきます。
企業買収(M&A)によって事業から収益を得ることで、収益を拡大。このビジネス形態は、バークシャー・ハサウェイなどの投資会社と似ています。買収対象をめぐっては、エクイティファンド(バイアウトファンド)と競合する事例も増えました。
この事業形態の変化によって、総合商社は成長路線に回帰しましたが、2015年が再度の転機になります。
資源依存からの脱却
2015年に急落した資源価格によって、三菱商事は2016年3月期の最終損益として1,493億円の赤字を計上。一株利益(EPS)もマイナスに転落しました。下のグラフは一株利益の推移です。
資源依存が強い三井物産も、同様に収益を悪化。いずれも、2011〜12年にかけて投資した、チリの銅事業の減損が原因です。銅価格の下落によって、収益が著しく悪化したのです。
一方で、早くから食料・情報・金融等の非資源分野への重点投資を進めてきた伊藤忠商事は、同期に過去最高利益を更新。はっきりと明暗が分かれました。伊藤忠商事は、利益の9割が非資源となっています。
以後、三菱商事は市況に左右されにくい非資源分野への投資を強化。国内ではローソンの子会社化が話題になりましたが、これもその一環です。現在は非資源系への投資を強化するとともに、出資先の企業価値の向上がより重要視されています。「投資から経営へ」という流れです。
5大商社の純利益推移
2016年3月期 | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | |
1位 | 伊藤忠商事:2,403億円 | 三菱商事:4,402億円 | 三菱商事:5,601億円 | 三菱商事:5,907億円 |
2位 | 住友商事:745億円 | 伊藤忠商事:3,522億円 | 三井物産:4,184億円 | 伊藤忠商事:5,005億円 |
3位 | 丸紅:622億円 | 三井物産:3,061億円 | 伊藤忠商事:4,003億円 | 三井物産:4,142億円 |
4位 | 三井物産:-834億円 | 住友商事:1,708億円 | 住友商事:3,085億円 | 住友商事:3,205億円 |
5位 | 三菱商事:-1,493億円 | 丸紅:1,553億円 | 丸紅:2,300億円 | 丸紅:2,308億円 |
三菱商事は赤字転落した2016年3月期を除けば、首位となっています。2019年3月期(2018年度)の5,907億円の純利益の内訳は、事業系が3,442億円、市況系が2,325億円です。
三菱商事は事業の大分類を、2017年に資源・非資源から、事業系・市況系に変更しています。概ね従来の非資源系に相当する、事業系の純利益が大きいことから、脱資源が進んでいることが分かります。
三菱商事の垣内社長は投資キャッシュフローの7割を事業系に、3割を市況系に振り分けると説明しています。
キャッシュフロー
(単位:百万円) | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 |
営業キャッシュフロー | 583,004 | 742,482 | 652,681 |
投資キャッシュフロー | -179,585 | -317,583 | -273,687 |
財務キャッシュフロー | -752,162 | -554,328 | -227,480 |
現金同等物 | 1,145,514 | 1,005,461 | 1,160,582 |
フリーキャッシュフローは3,000億〜4,000億円で推移。高水準を維持しています。キャッシュフローは非常に健全です。
塁審配当政策
三菱商事の株主還元政策の中でも、大きな特徴として挙げられるのが、塁審配当政策です。塁審配当政策とは、減配をせずに最低でも現在の配当水準を維持し、利益の成長とともに増配を目指す政策です。
日本の企業は欧米の企業に比べて、市況が悪化すると、減配をする傾向が強いですが、三菱商事は今後減配をしないと宣言しています。株主還元の基本を配当にすると、中期経営計画に明記していることも含めて、シーゲル流の投資との相性が良いと言えます。
個人的な評価
以下の理由から個人的には高評価です。株価が安い時には買い増したい銘柄です。
- 事業系の利益が伸びている(稼ぐ力の向上)
- 純資産倍率などの各種指標が割安圏
- 塁審配当政策を掲げていて、減配リスクが非常に小さい