自動運転市場が活況です。日経新聞では関連記事を日々見ます。テレビでもよく報道されています。
この記事では、自動運転の概要と、どういう観点で投資するのが有利かについて、個人的な考えをまとめます。
目次
MaaS(マース)
MaaSはMobility as a Serviceの略称です。国土交通省によると、この言葉には定まった定義がありません。前提としては、「車を所有する時代が終わり、一元化された情報から、最適に活用する時代になる」という考えがあります。
例えば、ある地点に移動したい場合、以前は電車、バス、飛行機など個別に調べる必要がありました。MaaSプラットフォームが整備された社会では、情報が一元的に管理されているため、最適な移動手段を、一度の検索で見つけることができます。更に進むと、移動手段は完全自動運転になります。
MaaSは先進地域の北欧の研究に従うと、以下の5段階に分類されます。
段階 | 内容 |
レベル0 | 何も統合されていない社会 |
レベル1 | 一元的に統合された情報にアクセスできる。 |
レベル2 | 一元化された情報にアクセスできた上で、予約・決済も同時に行える。 |
レベル3 | 統合サービス事業者(MaaSオペレータ)が、統合されたサービスを代理提供する。 |
レべル4 | 都市計画等の政策が統合されている。 |
MONET Technologies
ソフトバンク(40.2%)、トヨタ自動車(39.8%)、日野自動車(9.9%)、本田技研(9.9%)が共同で設立した会社です。MaaSの普及・促進を当面の目的としています。
最終的に、MaaSオペレータに接続するアプリなどを普及させれば、一人勝ちの状態になることも考えられます。MaaSオペレータのシェアも、いずれテーマになるかもしれません。
Uber上場
3月29日に上場したリフトに続いて、5月10日にはUberも上場をはたしました。公開価格から算出するUberの評価額は約820億ドルです(ストックオプション込み)。このIPOは、2019年上半期最大のIPOなのはもちろんのこと、2014年のAlibaba上場以来最大規模。
冴えない株価

UBER、BYND比較チャート。 source yahoo finance
緑色のチャートがUber、水色がビヨンド・ミート(BYND)です。
Uberは5月10日に公開価格45ドルで上場してから、下落基調が続き、現在は32.5ドルです。約27%の下落。
同じ5月に上場したビヨンド・ミート(BYND)と、よく比較されます。ビヨンド・ミートは、公開価格25ドルから上昇し続け、一時的には10倍近い239ドルになりました。その後、増資計画が懸念され下落。それでも167ドルと6倍以上。Uberとは対照的な値動きです。
アメリカ市場では、Uberなどのライドシェア事業者に厳しい目が向けられ、IPO投資家の関心は代用肉市場などに移っています。
赤字体質
Uberは2019年第二四半期で、52億ドルの純損失を計上しました。売上高は続伸しましたが、前年同期比14%増では、新興企業としては成長が遅い。EPS(一株利益)も2015年の-0.95ドルから減少を続け、今期は-4.72ドルです(市場予測は-3.12)。
自動運転の見通し
Uberなどのライドシェア事業者にとって、重いのは人件費です。Uberが拡大路線を取っているのは、来たる自動運転実現に向けてのシェア確保です。ランチェスター戦略のシェア至上主義の発想。
自動運転のレベルの定義
段階 | 内容 | 事故の際の法的責任 | 運転手 | |
レベル1 | 運転支援 | 軽減ブレーキなど。車両制御。 | 運転手 | 必要 |
レベル2 | 部分的(特定条件下)自動運転 | 高速道路などでの自動運転機能。 | 運転手 | 必要 |
レベル3 | 条件付自動運転 | システムが運転。ドライバーは要請に応える必要あり。 | 自動車メーカー | 必要 |
レベル4 | 特定条件下完全自動運転 | 高速道路などに限って、緊急時もシステムが運転に係る全ての操作を行う。 | 自動車メーカー | 必要 |
レベル5 | 完全自動運転 | 無人運転 | 自動車メーカー | 不要 |
レベル3以上が自動運転です。レベル3以上になると、運転を主導するのがドライバーではなく、システムですから、事故の際の責任をメーカーが負うとされます(現時点で)。損害保険の対象がどのレベルまで適用されるのかは、今後の議論になるでしょう。
Uberなどのライドシェア事業者にとって、重しとなっているのはドライバーの存在。ドライバーが不要となるのは、完全自動運転が実現するレベル5です。
レベル3以上実現の見通し
「自動運転レベル3は来ない」独コンチネンタルの読み(日本経済新聞。2019年8月30日)
「(条件付きで自動運転が可能な)レベル3の自動運転車が普及する時代は当面来ない」――。多くの自動車メーカーに自動運転や先進運転支援システム(ADAS)向けの部品を供給する自動車部品世界2位の独コンチネンタルのトップが断言した。
同社最高経営責任者(CEO)のエルマー・デゲンハート氏は、2030年時点で世界の新車販売台数の占めるレベル3対応車の割合は「数パーセントにとどまる」(同氏)と読む。
コンチネンタル社の見通しが本当であれば、Uberの飛躍に求められるレベル5の実現は相当遠い道のりになります。
オハイオ州立大学のジェイ・バーニー教授(経営学)は、「先行者利益はたいていの場合、短命に終わる」ことを説明していますが、Uberは利益を得ないまま、短命に終わる可能性があります。
ソニーのイメージセンサー
自動運転は実現が遠いから儲からないのか?と言うと、そうではありません。
1844〜45年頃の、カルフォルニア・ゴールドラッシュで儲けたのは、炭鉱夫でも無ければ、投資家でもありません。ツルハシを売っていた人でした。
この例を自動運転に当てはめると、当分の間、自動運転という金脈で儲けるのは、Uber(炭鉱夫)でもUberに投資する企業でもない、第三者かもしれません。
自動運転に必要なCMOSイメージセンサーを造るソニーは、ツルハシを売っていた人の位置にいます。イメージセンサーは、自動運転の各段階において必要不可欠です。
ソニーは元々、一眼レフカメラや監視カメラ向けに、イメージセンサーを作ってきました。気がついたら、ソニーの技術が自動運転に必要な時代になっていた。車載事業部統括部長の北山尚一氏によれば、2014年まで車載用イメージセンサーについて、何も分かっていなかったとのこと。
この分野の参入障壁は高く、他社は容易に追随できません。
CMOSイメージセンサー・世界シェア(2018年)
フランスの半導体市場調査会社(Yole Développement)によると、車載用イメージセンサーの市場は年率9.1%のペースで上昇し続けるとされます。
2018年のイメージセンサーのソニーのシェアは、世界市場で約50%とかなり高い(下のチャートを参照)。ソニーは2025年までに、シェアを60%に伸長させる計画です。
GoogleのAI技術
Googleと言えば、AI研究の第一人者ジェフリー・ヒントン教授を擁し、AIを活用した社会問題の解決に取り組んでいる企業です。MIT Technology Reviewによると、AIに係る論文の引用件数でヒントン教授は1位ですが、その引用件数は2位〜4位を合計したものより多い。2017年には新しいディープ・ラーニングの仕組みとして、カプセルネットワークを発表しています。
AIに強いGoogleも自動運転市場に参入しています。従来の建物重視のGoogleマップ(ZENRINベース)を廃止し、新しい道路重視のGoogleマップを発表しています。高いシェアを持つGoogleマップの仕様変更は、自動運転に対応するためです。
陣営作りの理由
台数(2017年) | 主な参画企業 | |
Google陣営 | 1,623万台 | ウェイモ、日産、三菱自動車、ルノー、フィアット、クライスラー、ジャガー、ランドローバー |
トヨタ・ソフトバンク陣営 | 2,373万台 | ソフトバンク、トヨタ、GM、ホンダ |
VW・Intel陣営 | 1,981万台 | Intel、VW、BMW、フォード |
自動運転分野は、同じデータを共有する企業が多いほど、開発スピードは上がり、コストは低減するとされます。そのため、各陣営に分かれ、中心企業による囲い込みが進んでいます。より良いシステムを構築できた陣営が、完全自動運転が実現した時に、勝ち組になる可能性が高いでしょう。
この分野はGoogleの得意分野であり、Google陣営が優位になると、個人的には考えています。
まとめ
Uberが獲得したシェアを背景に大きく飛躍する条件が、完全自動運転の実現だとすると、時間がかかり過ぎる。それまで、シェアトップのまま耐えられるか疑問です。
ソニーは現在、ツルハシ・ビジネス的に、自動運転市場で稼げる位置にいます。今後10年ぐらいは、良い位置にいる可能性が高い。
Googleは将来的に、本当の金脈である、プラットフォームの勝者になる可能性が高い。以上が私の考えです。