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アトピーJAK阻害剤「コレクチム」が承認へ向かう
JT(日本たばこ産業株式会社)に朗報です。JTと鳥居薬品株式会社が承認を目指していた、アトピーJAK阻害剤が、厚生労働省の薬食審・医薬品第一部会の審議を無事通過しました。
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤「コレクチム」(JTE-052。一般名:デルゴシチニブ)」は、来年1月にも承認される可能性が高まっています。
承認申請時点のJTのプレスリリース内容
参考 JAK 阻害剤「JTE-052(デルゴシチニブ)軟膏」の 日本国内における製造販売承認申請についてJT承認申請は1月にプレスリリースされていました。これが無事に承認を得られそうです。
アトピー性皮膚炎に対応したJAK 阻害剤は初とのこと。
細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たす JAK の働きを阻害し、 免疫反応の過剰な活性化を抑制することで、自己免疫・アレルギー性疾患を改善することが期待される。
現在のアトピー治療では、ステロイドが広く用いられていると思います。JAK阻害薬の仕組みは、ステロイドや通常の非ステロイド抗炎症薬とも異なるということです。プロユースの薬品の評価は私には出来ませんが、この独自性に需要があることを期待したいですね。
JTのたばこ事業
国内たばこ事業
たばこに対する風当たりは強まっており、喫煙者数は減少の一途です。国内におけるタバコの販売本数はこのとおり、右肩下がりになっています。
海外たばこ事業
一方で、海外たばこ事業は好調です。ロシアのJSC Donskoy Tabak(DT)や、エチオピアのナショナル・タバコ・ エンタープライズ(NTE)を買収したことが、大きく寄与しています。
国内では喫煙者人口は減り続けています。一方、発展途上国では可処分所得の増加によって、これから喫煙者人口が増加すると予測されています。特にアフリカは長期的な人口増加も期待できるので、エチオピアの最大手たばこ会社を買収したのは、良いM&Aではないかと思います。
2018年度の営業利益
調整後営業利益 | 対前年比増減 | |
国内たばこ事業 | 2,090(億円) | -10.0% |
海外たばこ事業 | 3,493(百万ドル) | +11.3% |
国内事業が衰退し、海外事業は伸長しています。今後、ますます海外比重が高まるでしょうから、為替変動の影響は甚大になります。海外事業の割合が重いので、円安になるほど、決算時点の業績は良くなりますね。円高に傾くと厳しい決算になります。
JTのたばこ以外の事業
たばこ事業は上記のとおり、為替変動の影響を強く受ける形態に変わってきています。その一方でJTが模索しているのが医薬事業と加工食品事業です。
加工食品事業
個人的には加工食品事業には期待していません。過去に「桃の天然水」や「ルーツ」といった、ヒット商品を生み出した飲料事業も、その後ヒット商品に恵まれず、事業自体を売却し撤退した経緯があります。加工食品事業も目立ったヒット商品がないので、期待はできないでしょう。
医薬事業
医薬事業は少し期待が持てそうです。
JTの本業であるたばこ事業は利益率が高く、キャッシュフローも良好なビジネスモデルです。その資金力を、莫大な研究費が必要な医薬品の研究・開発に回せるのは、優位性があると思います。
JTの傘下には医薬総合研究所という組織があります。これまでの成功例を見ると、医薬総合研究所が米ギリアド社と開発した、抗HIV薬の「スタリビルド配合錠」とその後継品である「ゲンボイヤ配合錠」はブロックバスターに育っています。(現在は販売ライセンス解消)
今回のアトピーJAK阻害薬が新たなブロックバスターに育てば、事業の多角化に繋がりますね。
個人的な見解
「事業の多角化は多悪化である」とピーター・リンチは言います。80年代にアメリカで隆盛を極めた、M&Aによる事業の多角化路線が、投資家に低い利回りしかもたらさなかったことが、著書で説明されています。確かに事業内容はシンプルで分かりやすい方が良いです。
しかし、たばこ事業の場合は先行きが不透明であり、JTとしてもタバコだけに固執することはできないでしょう。海外たばこ企業を買収することによって、たばこ事業の地域分散を図りながら、医薬品の研究開発も進めていく方法は、悪くないと思います。
過度な期待は禁物ですが、今回の審議通過はJTの医薬事業にとって、久々の朗報でした。